あとり さん
サイト「ATORI'S FOREST」を2000.10.21〜2002.5まで運営、現在諸事情により閉鎖中。
タニス・リーのファンページ「RAT DEVI〜タニス・リーの世界〜」を開いておられました。
再開までの間、早川文庫FTの感想の多かった該当ページ内容を、当サイトで預からせて頂いてます。 背景画像や構成、注意書きの類等、細部はいじらせて貰っておりますが、御容赦を。
(一歩:2002.5.29)


RAT DEVI
〜タニス・リーの世界〜
by あとり さん



タニス・リーについて・他


私がタニス・リーの作品と初めて出会ったのは、高校生の時でした。
図書館で手にしたのは「死の王」でしたが
それまで味わったことのない、タニス・リーの華やかで冷酷、そして重厚な世界に
のめり込むようにして読みました。
それ以来、数少ない翻訳を探して読み続けています。
タニス・リーならではの、その卓越した物語の世界を
少しでも多くの人に知ってもらえたら、と思います。

                     あとり


タニス・リー  Tanith Lee

 1947年9月19日、ロンドンに生まれる。
 1968年に「ドラゴン探索号の冒険」で作家としてデビュー。
 1975年に「The Birthgrave」で、大人を対象としたファンタジーの執筆を始める。
 世界幻想文学大賞の短篇部門で2度受賞し、「死の王」で英国幻想文学大賞を受けている。
 現在も、ファンタジーだけでなく、ホラー、SFなど多岐にわたる作品を、毎年多数、発表し続けている。


〈ベヌスの秘録〉翻訳運動 にご協力下さい!(^O^)

タニス・リー作品リスト&レビューリンク
制作 : Okawa氏@風の十二方位
リー・ファンの皆さんが参加されています。
ブックレビューも色々な視点があって、奥が深いです。(^o^)


※ それぞれのコーナーで作品タイトル横の年数は、原書(雑誌以外)の初版された
  年数です。日本語に翻訳されたものは、また年数が異なります。
※ タイトルが英語のものは、日本語未翻訳の作品です。 (雑誌は対象外です)
※ 未翻訳作品の登場人物名は、あとりが「こうかな?」と思って書いていますので
  必ずしも正しい発音とは限りません(^^;) ご了承下さい。
※ なるべくネタバレにならないように気を付けていますが、未翻訳作品のレビュー
  は多少あらすじを詳しくしてあります。
  「ネタバレはダメなの」という方はお気をつけ下さい(^v^)

★「RAT DEVI」とは、インドの公用語の一つヒンディー語で
 ラート・デーヴィー「夜の女神」という意味です。
 アルファベットで表記してますが、本来ヒンディー語は
 デーヴァナーガリー文字を使用します。


翻訳リスト・未翻訳リスト

翻訳リスト

このリストは、わたしが確認が取れた作品のリストです。
ただし、残念ながら中には絶版になってしまっているものもたくさんあります。
購入される時は書店等で確認してくださいね〜。

ドラゴン探索号の冒険  井辻 朱美・訳  (社会思想社現代教養文庫)
闇の公子  浅羽 莢子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
死の王  室住 信子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
惑乱の公子  浅羽 莢子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
熱夢の女王  浅羽 莢子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
妖魔の戯れ  浅羽 莢子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
月と太陽の魔術師  汀 奈津子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
冬物語  室住 信子/森下 弓子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
白馬の王子  井辻 朱美・訳  (ハヤカワ文庫FT)
死霊の都  森下 弓子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
幻魔の虜囚  浅羽 莢子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
闇の城  こだま ともこ・訳  (ハヤカワ文庫FT)
影に歌えば  井辻 朱美・訳  (ハヤカワ文庫FT)
タマスターラー〜インド幻想夜話〜  酒井 昭伸・訳  (ハヤカワ文庫FT)
ゴルゴン〜幻獣夜話〜  木村 由利子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
黄金の魔獣  木村 由利子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
血のごとく赤く〜幻想童話集〜  木村 由利子/室住 信子・訳  (ハヤカワ文庫FT)
銀色の恋人  井辻 朱美・訳  (ハヤカワ文庫SF)
獣の書〈パラディスの秘録〉  浅羽 莢子・訳  (角川ホラー文庫)
堕ちたる者の書〈パラディスの秘録〉  浅羽 莢子・訳  (角川ホラー文庫)
雨にうたれて  室住 信子・訳  『アザー・エデン〜イギリスSF傑作選〜』 (ハヤカワ文庫SF)
ジャンフィアの木  小梨 直・訳  『血も心も〜新吸血鬼物語〜』 (新潮文庫)
貴婦人(ラ・ダーム)  小林 理子・訳  『死の姉妹』 (扶桑社ミステリー文庫)
顔には花、足には刺  佐田 千織・訳  『魔猫』 (早川書房)
ヒューマン・ミステリ  日暮 雅通・訳  『四人目の賢者〜クリスマスの依頼人供繊戞 文興駛次

未翻訳リスト

読み終えた未翻訳作品を、アルファベット順にリストアップしていきます。
こちらからレビューに飛ぶこともできます。

作 品 名 初版年  
 THE BEAST   1999  短編/アンソロジー 
 BLACK UNICORN  1991  長編/ユニコーン・シリーズ 
 DARK DANCE  1992  長編/血のオペラ・シリーズ 機
 KISS KISS    1999  短編/アンソロジー 
 PERSONAL DARKNESS  1993  長編/血のオペラ・シリーズ 供


長編・短編集・アンソロジーのレビュー


長 編    1971〜1979

NEXT(’80〜88)


ドラゴン探索号の冒険 (1971)
冬物語 (冬物語/1976、アヴィリスの妖杯/1975)
幻魔の虜囚 (1977)
月と太陽の魔道師 (1977)
闇の城 (1978)
闇の公子 〈平たい地球シリーズ 機咫 複隠坑沓検
死の王 〈平たい地球シリーズ 供咫 複隠坑沓后
死霊の都 (1979)


ドラゴン探索号の冒険  THE DORAGON HORD (1971)

  マイナス王の双子、ジャスレス王子とグッドネス王女は、17歳の誕生日を迎えた。

  だがその誕生祝いに招待されなかった、双子の遠縁にあたる魔女マリーニャは腹を立て、二人に魔法をかける。 ジャスレス王子は「1日に1時間カラスになる」ようにされてしまい、グッドネス王女は「けたはずれのお人好しに」なってしまった。

  魔法をかけられたグッドネス王女は、王宮にあるものを、どんどん人々に、動物たちに与えてしまう。 これでは国が破産してしまう、とジャスレス王子は国の窮状を救うために、ドラゴン探索号で冒険に乗り出した。


  日本語に翻訳されている作品で一番古いものです。 子供向けのシンプルな物語ですが、様々なエピソードが豊かに語られていく様は、その後に書かれるリーの作品のほとんどに通じるものがあるように感じられます。

  「平たい地球」シリーズにも見ることができる、「アラビアン・ナイト」仕立ての奇想天外な異国の物語は、子供も大人も読んでも楽しめるものでしょう。

  一捻り加えられた悪役たちも、どこかユーモラスで魅力的です。 ただただ、英雄が悪人を懲らしめるだけに終わらない、リー様ならではの物語です。

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冬物語  THE WINTER PLAYERS (1976) /
                 THE COMPANIONS ON THE ROAD (1975)
 ★冬物語★

  17歳の巫女オアイーヴは北の海を見下ろす神殿に住まい、一人その地を守っていた。

  その神殿には代々の巫女だけが見ることができる、3つの聖遺物があった。 1つは指輪、1つは宝石、そしてもう1つは短いほっそりとした骨の欠片。

  だがある時、神殿にやってきた旅の男グレイに、聖遺物を盗まれてしまう。 オアイーヴは聖遺物を取り返すべく、巫女として教えられていた魔法を使い、グレイを追いかけるが・・・。


  長編ではなくて中編ですが、長編に入れさせてもらいました(^^;) 次に紹介する「アヴィリスの妖杯」と一緒に「冬物語」に収録されています。

  若く美しい巫女オアイーヴが、巫女としての義務を果たすべく、謎の男グレイを追うために、使い慣れない魔法でもって、必死に追いかけていく姿は、もうロマンです(笑)

  さらに、ただそれだけで終わらないのがリー様の世界。 決して多いとは言えないページ数の中で、二転三転と読者を心地よく裏切っていってくれます。

  物語の結末では、中編とは思えない、深い感慨がありました〜。 ほ〜(-o-)

 ★アヴィリスの妖杯★

  領主が闇の力と手を結んでいる、と噂されるアヴィリスが陥落した。

  その戦に一部隊の隊長としてアヴィリスに赴いていた、“鷹”の異名をもつ異郷人ハヴォル。 彼は戦で死んだ部下の家族のために、金を必要としていた。 そこに、狐のような盗人カキルが陣営に入り込んでくる。 カキルはすぐに捕らえられるが、命乞いの代償として、アヴィリスの領主が残した黄金の杯の在処をうち明ける。

  ためらいながらも話にのるハヴォル。 欲に目がくらみ、行動を共にする副隊長のフェルース。 3人の男は難なく宝石をちりばめた黄金の杯を手に入れるが、アヴィリスの闇の力が、杯と3人をどこまでも追いかけていく。


  ダーク・ファンタジー。 ホラーと言っても良いかもしれないくらい、じりじりと3人を追いかけてくる、アヴィリスの呪いが不気味です。 夜中、一人でこれを読んでいたんですが、「冬物語」の感慨もどこへやら(^^;)、緊張のあまり硬直して読んでいました。

  それでも、リー様にしては、意外にストレートな展開。 ですが、個人的にはホラー・タッチな作品が好きなので、一息に読めました。 夏の読書にオススメです(笑)。

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幻魔の虜囚  VOLKHAVAAR (1977)

  奴隷娘シャイナは、横暴な主にこき使われ、暴力を振るわれながらも、誇り高く日々を送っていた。

  だがある晩、奇術師の王カーニックと名乗る不可思議な男が、旅芸人の一座を率いてシャイナの村にやってきた。 彼らは奇術を用い、大仰な舞台を見せた後、村人たちをいいように操り、食料や酒を差し出させて消え去った。 翌朝になると、村人たちは彼らのことを覚えてはいなかった。 覚えていたのはシャイナただ一人。

  シャイナは、その旅芸人たちの看板役者に恋をしてしまったのだ。

  ところがカーニックの正体は、ヴォルクハヴァールという名の邪神の使者であった。 旅芸人たちは彼に魂を抜き取られ、操られていた。 シャイナは、看板役者を救おうと決心し、魔術の知識を得るために、村から離れて住む魔女バルバヤートの元を訪れる。


  リーおなじみのテーマです。 捕らえられた若者を救うために、若い娘が魔法を使って敵に立ち向かう、というもの。

  リーはその流れるような文体が素晴らしいのですが、この作品ではシャイナ、ヴォルクハヴァール、バルバヤートが使う魔法の言葉が見事です。 恐らく言霊という考えに基づいているのでしょうが、見立てや、謎かけなどが巧みに組み立てられていて、まるで、目の前で魔法が繰り広げられているような錯覚に陥ります。

  ひたむきで可愛らしいシャイナが、バルバヤートから魔法を学び、ヴォルクハヴァールと対峙することによって、成長していく姿も読んでいて楽しい作品です。

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月と太陽の魔道師  EAST OF MIDNIGHT (1977)

  奴隷のデクテオンは老奴隷に促されるまま、主人の館から逃亡した。 その途中、追いかけてきた犬をやり過ごすために潜り込んだ古い遺跡の石から、デクテオンは異世界に入り込んでしまう。

  そこは女が治める世界。 女王の夫ザイスタアは5年の任期を終えて、やがて仕来り通りに死を与えられることになっていた。 ザイスタアは女たちと死から逃れるために、自分に瓜二つである異世界の男、デクテオンを身代わりに仕立て、自らはデクテオンの世界に逃げ込んだ。

  だがザイスタアにはない男としての矜持を持ったデクテオンは、古い仕来りをうち破るために行動を起こし始める。


  女たちが治める異世界が、リーならではの文章で描かれています。男の象徴を太陽、女の象徴を月として、そこから派生する様々なモチーフを使い、一つの世界を作り上げています。

  逆転を繰り返していく、対の存在であるザイスタアとデクテオン。 その対比が面白いです。 どちらも自らが置かれた環境によって変化していくのですが、どちらも意外性に富んでいて、読んでいて次々と話の中に引っ張られていきます。

  今回は月を象徴とする女の世界でしたが、リーが作り出す異世界は、いつも様々な魅力に満ちあふれています。

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闇の城  THE CASTLE OF DARK (1978)

  リルーンは二人の老婆にかしずかれ、黒い廃墟のような城に住んでいた。 他には住む者もなく、近隣には村もない。 リルーンは二人の老婆以外の人間を知らず、16歳のその時まで、城に閉じ込められるようにして育てられていた。

  だがリルーンは決して従順な娘ではなかった。 “呼ぶ”魔法を老婆たちに隠れて使い、救い出してくれる人間を呼び寄せようとしていた。

  リルーンの“呼ぶ”力に絡め取られ、廃墟のような黒い城にやってきたのは、若い吟遊詩人リアであった。


  この作品を読んで何が驚いたかというと、「ヒロイン」リルーンの我が儘っぷりでした(笑) 彼女の育った環境を考えるとそれは当然なことなのですが、まず他の作家の物語では、なかなかお目にかかれないタイプでしょう。

  なおかつリルーンに振り回されるリアも、決してヒーロー然とした立派な青年ではないのです。 リルーンのために様々な困難に立ち向かっていくのですが、どちらかというと「しぶしぶ」という風なのです。

  ですが、そんな二人だからこそ、ラストに至って彼らの意志すらも越える強い絆を感じることができるのかもしれません。

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闇の公子  NIGHT’S MASTER 〈 FLAT EARTH 機咫 複隠坑沓検

  この世がかつて平らかであった頃、神々はすでに人間への興味を失い、人々の祈りの声に耳を傾けることはなかった。 しかし、5人の闇の公子たちは時折、人々の営みに足を踏み入れ、興の赴くまま人々の運命を翻弄していく。

  妖魔の王アズュラーンは、闇の公子の一人。 ある時、人ならぬ美貌と青く輝く闇色の髪を持った男の姿で、死にゆく女の傍らに現れた。

  産み落としたばかりの幼子を思い、女は苦しみながら死んでいく。

  だが、その幼子の美しさ、中でも藍色の瞳に惹かれたアズュラーンは、その幼子を自らが治める妖魔の都ドルーヒム・ヴァナーシュタへと連れ帰った。

  地底の都で、妖魔にかしずかれ、幼子はやがて美しい16歳の青年へと成長する。 だが、青年は人であるがゆえに、妖魔と共に過ごす日々に苦しみ始めた。


  これぞリー作品! 傑作です!(力まずにはいられません(笑))

  上記の物語はあくまでもプロローグにすぎません。 この物語から、次々とまた異なる物語が綴られていきます。 中程までは、アズュラーンを主人公とした短編が並んでいるように思っていましたが、後半に入ると、前半の物語が全て巧みに絡み合い、一つの物語としての終局に向かっていきます。

  妖魔の人とは異なる魅力、そして神話伝承を越えた妖魔の都の壮麗さ、広大な平たい地球という世界。 リーの異世界構築の巧みさを、これでもかこれでもかと堪能できます。

 そしてこの作品は、この後に続く「平たい地球シリーズ」への、入り口なのです。

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死の王  DEATH’S MASTER 〈 FLAT EARTH 供咫 複隠坑沓后

  メルの豹女王ナラセンは、己の王国が病み朽ちていくのを、忸怩たる思いで眺めていた。

  その原因を作ったのはナラセン自身であった。 その時より一年ほど前、死に至らしめた魔術師イサクの呪いが、疫病を呼び、干魃を呼んだのであった。

  呪いを解く方法は、ただ一つ。 ナラセンが死者との間に子をもうけることであった。

  闇の公子の一人である死の王ウールムの力を借りて、ナラセンは死者との間に子をもうけるが、産褥の床で毒を盛られて死んでしまう。 赤子もまた、両性具有であったために忌まれて、ナラセンの骸と共に墓に放り出された。

  その赤子は美しさから、通りすがりの妖魔によって拾われ、シミュと名付けられた。


  シミュとジレクの数奇な運命を主軸に、死の王ウールムと妖魔の王アズュラーンとの対立を描いた長編です。 両性具有、不老不死の魔術師、死の王に仕える幼い少女の姿をした魔女、妖精と人との間に生まれた娘、と魅力に満ちあふれた様々な登場人物が、物語を押し進めていきます。

  人物だけではなく、豊かな色彩で描かれるリー独自の異世界が、また不思議な魅力を作り出しています。

  物語に物語が絡んでいく、濃密で華麗なリーの世界を長〜く、味わえる長編です(^o^)

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死霊の都  SHON THE TAKEN (1979)

  トロムの村には、ある掟があった。

  村の東にある〈死の住処〉。 そこは鴉の一族が治める地。 〈死の子供たち〉である鴉の一族に出会ったが最後、その者は、憑かれ者として殺さなければならない。 憑かれ者は死と災いを運ぶ者だからだ。

  17才の少年ショーンは、猪狩りの時に兄の奸計によって、森に一人で取り残された。 そして夜の森をさまよい歩くうちに、彼は鴉の一族に出会う。

  鴉たちはからかいながらもショーンを結局殺さなかった。 一人の鴉が、村には戻らぬよう、警告をする。
  何故ならば、ショーンは憑かれ者になってしまったからだ。


  リー作品ならではの、美しい色彩に満ちた夜の世界。 その世界を舞台に、自分の運命に立ち向かうショーンの勇気が生き生きと描かれています。

  迷信という枷を、「憑かれた」ことによって外すことになってしまったショーン。 突然、未知の世界に放り出されて、戸惑う彼の姿は私たちの身の上にも起こり得るようで、それは単なる架空の物語で片付けられないように思えます。

  いくつもの困難の中で生まれる、友情、信頼と理解に胸が熱くなります。 人々の思い豊かな物語です。

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長 編    1980〜1988

BACK(’71〜79)    NEXT(’91〜)


惑乱の公子 〈平たい地球シリーズ 掘咫 複隠坑牽院
銀色の恋人 (1981)
白馬の王子 (1982)
影に歌えば (1983)
熱夢の女王 〈平たい地球シリーズ 検咫 複隠坑牽供
堕ちたる者の書 〈パラディスの秘録〉 (1988)
獣の書 〈パラディスの秘録〉 (1988)


惑乱の公子  DELUSHION’S MASTER 〈 FLAT EARTH  〉 (1981)

  砂と太陽の国の王ネムドルの元に、水の王国から嫁いだ美しいジャスリン。 太陽神のようなネムドルに一目で恋に落ち、やがてその子を身ごもった。

  だが妊娠によってジャスリンの体型が変化するや、ネムドルの愛は他の女たちに移り、生まれてきた子へと移っていった。 ネムドルの愛を奪われた、と思い込んだジャスリンは、そのまま狂気へと落ちていく。 ならば赤子さえいなければ、と我が子を死に追いやってしまった。

  それはすぐにもネムドルに知られた。 愛を取り戻すどころか、ジャスリンは罪を責められ、そのためにジャスリンの心は完全に壊れてしまった。

  そしてある晩、王宮より追いやられたジャスリンの前に、闇の君の一人、狂気を司るチャズが現れる。 チャズはジャスリンの望みを叶えようと告げる。 ジャスリンが望んだのは、ネムドルの狂気であった。


  『死の王』に続く〈平たい地球〉シリーズの3作目です。

  3人目の闇の君、チャズが登場します。 〈狂気〉という捉えがたい概念(キャラクター)が、醜美一体の姿と独特のセリフ回しで、魅力的に描かれています。 このシリーズでの、一番の狂言回し(美味しいトコ取り、とも言う)は、このチャズではないでしょうか。

  物語の先々で、あの妖魔の王アズュラーンもチャズの狂気に絡めとられてしまいます。

  息もつかせぬ壮大な物語を、是非とも色んな人に読んでいただきたいです。 ・・・・・とにかく、読んでみてくださいね(笑)。

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銀色の恋人  THE SILVER METAL LOVER (1981)

  裕福な母親の庇護のもとで、ジェーンは人形のように無為で孤独な日々を過ごしていた。

  ある時友人エジプティアのパーティーで、彼女はギターを爪弾きながら歌う一体の美しいロボット ─ シルヴァーと出会う。 鳶色の瞳に赤褐色の髪、そして銀色の肌。 シルヴァーはエレクトロニック・メタルズ社が試作した精巧仕様ロボットの一体であった。

  ジェーンは彼をロボットとわかっていながらも、恋に落ちてしまう。

  シルヴァーを心の底から求めながらも、相手がロボットであるが故に母には何も言い出せない。 だがその激しい想いに突き動かされ、ついにジェーンは自分の意志の力で家を出る。


  翻訳された長編の中では唯一のサイエンス・フィクション作品です。 (タニス・リーは他にもたくさんのサイエンス・フィクションを発表しているのですが・・・) 昔から用いられてきたロボットと人との交流、人工知能は心を産み出すのか?、というテーマが語られています。

  リー独自の鮮やかな色彩の中で、人形のように幼すぎる心を持つジェーンと、人間らしさを持っていたために検査に通らなかったシルヴァーが、互いに影響しあい変化していく姿が見事に描きだされています。

  心の一部を無くしてしまったようなジェーンの友人たち、彼女を愛情という名目で支配する母親。 そして様々な象徴に満ちた世界。

  ジェーンの愛によって産み出されるものは、彼女自身の自立だけではないのです。

  蛇足。 私は何度もこの物語を読み返していますが、読む度に新しい発見をし、泣いてしまいます。

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白馬の王子  PRINCE ON A WHITE HORSE (1982)

  王子は気が付くと白馬に乗って、十時間も荒野をさまよっていた。  ところが自分が何者で、どこから来たか、まったくわからない。

  すると、黒髪の娘、荒野の女主人(レディ・オブ・ザ・ウエスト)が現れ、真鍮の竜に護られた骨の城に世の秘密が隠されている、と助言する。

  娘が消えた後、自分を奮い立たせようと王子が独り言を言うと、なんと乗っていた白馬が口をきき、当然のように返答をした!

  成り行き任せのどことなく頼りない王子が、白馬の知恵に助けられながら、様々な怪物、難問に立ち向かう。


  ボケの王子とツッコミの白馬(笑) いまだかつてこんなコンビがいたでしょうか?(^O^)

  あらゆる所に探求的ファンタジーのパロディが散りばめられています。 リーのロマンティック・ファンタジーだけを読んで来た人間には、いささかびっくりするほど遊び心に満ちた作品です。

  ですがそれだけで終わらないのが、この作品。 物語の終盤では、読者が思いも掛けない”本当の自分”を王子は思い出します。 パロディを用いている作品だからこそ、とも、そういう作品であっても、とも取れる、リーのファンタジーに対する思いを垣間見るようなラストです。

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影に歌えば  SUNG IN SHADOW (1983)

  ヴァレンサではいくつもの名家が違いに牽制しあい、凌ぎを削っていた。 特に敵対しあっていたのは、モンターゴー家とチェンティ家。

  そのモンターゴー家の一人息子ロミュラーンは、ある夜、やはりヴァレンサの名家の一つフェロ家の男たちに突如、襲われた。 友人であるエステンバ家のマーキューリオと共に剣をかえすが、ロミュラーンもまた、深い傷を負ってしまう。

  手当のため、ロミュラーンがマーキューリオに連れて来られたのは、娼家であった。

  その夜、チェンティ家の一人娘であるユウレッタもまた、乳母に連れられそこを訪れていた。 担ぎ込まれた血だらけのロミュラーンを一目見るなり、ユウレッタは心を奪われる。

  ロミュラーンが何者かも知らず、もう一度彼に会いたいと、ユウレッタは乳母にせがんだ。

  リー様版ロミオとジュリエットです。 登場人物の名前も多少変えてはあるものの、誰が誰であるのか一目瞭然です。

  舞台となる世界の描写はリー様ならではの華麗さなのですが、シェイクスピアのオリジナルにどことなく引きずられているようで、いつものテンポの良さ、展開の鮮やかさがなんとなく弱く感じられました。

  いえいえ、逆にシェイクスピアのオリジナルを熟読してる方には、かえって面白いのかもしれません。 最後の最後では、あのおなじみのラストも、リーの魔法にかかって、まったく違う色合いを見せていました。

  ただ、リー様にぞっこんの私にとっても珍しく、一息には読めなかった作品でした(^^;)

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熱夢の女王  DELIRIUM’S MISTRESS 〈 FLAT EARTH  〉 (1986)

  言葉巧みに魔道卿ラク・ヘズールを唆し、金髪の美しい青年オロルーは、妖魔の王、夜の公子アズュラーンの治める妖魔の王国ドルーヒム・ヴァナーシュタへまんまと入り込んだ。

  彼の目的はアズュラーンの娘アズリュアズ。 だがオロルーという青年の姿は仮のもの。 アズリュアズを地上へと連れ出したのは、狂気の王チャズであった。

  そして必然のように二人は恋に落ちる。

  その一方で、チャズの侵入とアズリュアズの逃亡を知ったアズュラーンは、二人を狩り、罰を下すために後を追った。


  『惑乱の公子』で、妖魔の王アズュラーンと人間であり彗星の娘であるドゥニゼル(ドゥーニス・エザエル─月の魂)との間に産まれた娘アズリュアズを主軸に、平たい地球の物語が繰り広げられます。

  広大な世界を舞台に、アズリュアズの愛が様々に形を変え、様々な人生に波紋を投げかけます。 前3作品に登場した闇の君たちや魔法使いたちが、アズリュアズへ示唆するために現れるのも、読者には嬉しい限りです。

  チャズとの愛、アズュラーンの女性原理としての魂の遍歴。 やがてアズリュアズが選択したものに、私たちは強く胸を打たれるのです。

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堕ちたる者の書  THE BOOK OF THE DAMNED 
              〈THE SECRET BOOKS OF PARADYS 機咫 複隠坑牽検
 ★紅(くれない)に染められ★

  若き詩人アンドレ・サン=ジャンは、ある夜、逃げまどう見知らぬ男から一つの指輪を受け取った。 それは丸いルビーに甲虫(スカラベ)が刻まれたものだった。 翌日、その男は死体となって発見された。

  だがその指輪を見たアンドレの友人フィリップは、その持ち主を知っていた。 それは年老いた銀行家の若い妻、アントニーナであった。

  独特の雰囲気を持ったアントニーナにサロンで出会い、アンドレは彼女に心を奪われてしまう。 近付く口実に、彼はルビーの指輪を持ち出したが、何故かアントニーナは冷ややかにそれを否定した。

 ★黄の殺意★

  若く美しい娘ジュアニーヌは、自分とは異質な家族や義父の虐待に耐えられず、義弟の一人を殺してしまった事をきっかけに、家を飛び出してしまう。 目的地はパラディスの都。 ただ一人ジュアニーヌを大切に扱ってくれた義弟の一人が、高名な画家に弟子入りし、そこで絵を学んでいるのだ。

  ようやく義弟の元へ辿りつき、再会を喜んだジュアニーヌだったが、義弟はすげなく彼女を追い返した。

  帰る事もできず途方にくれた彼女の前に、サタンを主と仰ぐ侏儒が現れた。 意外な事に、彼はジュアニーヌを尼僧院へと導いた。

 ★青の帝国★

  サン=ジャンという男の筆名を使う女記者の前に、ルイ・ド・ジュニエという役者が現れ、突然「1週間足らずで私は死ぬ」と書いた名刺を差し出した。

  ド・ジュニエは後からやってきた他の二人の男に、強引に連れて行かれた。

  躊躇いながらもサン=ジャンは、1週間後に彼の家を訪れた。 書斎には、彼女宛ての封書と、2枚の美しい女性の額装された写真が残されていた。 そして窓の外には、一人の男が首を傾けて吊り下がっていた。


  「短編集」に入れようか迷って、結局「長編」に持ってきました(^^;) ページ数は少ないですが、内容は非常に濃い、架空の魔都パラディスの物語3編、シリーズの1作目です。

  『紅に染められ』は吸血鬼譚、『黄の殺意』はサタニズム、『青の帝国』は魔道士の蘇りの物語。 3編に共通するテーマは両性具有です。 どのモチーフもファンタジーではお馴染みのものですが、不思議と (いつもそうなんですが、本当に不思議なんです(笑)) リー作品ではまったく違う姿になってしまいます。

  色彩の扱い方もこのシリーズの特色で、作品によってテーマの色が決まっています。 作品名を見てもわかりますが、作品ごとに決められ、その色だけが溢れているのです。

  『紅に染められ』は血を思わせる赤だけが色として浮き上がり、血腥い空気の中で魔性の吸血鬼の、憎悪を裏打ちされた愛が繰り広げられます。 

  『黄の殺意』では眩しいばかりの黄色の光の中で、ヒロインと、彼女の根底にあり架空の都に存在する神(キリスト教)の、魔性と聖性が表裏一体として描かれています。

  『青の帝国』の青は、私たちが見る空や海のような心安らぐ青ではありません。 長く見つめていると不快感さえ感じるような、病んだ悪意の青です。 ド・ジュニエを通して立ち現れる古(いにしえ)の魔女は、巧妙に蜘蛛の糸を張り巡らせていきます。

  出版されてすぐに読んだ時は、実は半分ほどしか理解できませんでした。 たぶん、ただ色彩が美しいとしか感じていなかったと思います。 改めて読んで、物語の深さに驚かされました。 特に『黄の殺意』は圧巻です。 その並はずれた密度の高さを、どうぞ読んで、実感してみてください。

  こういう作品を読むと、作品の長さがその重みを作るのではないのだな〜、というのがよくわかります。

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獣の書  THE BOOK OF THE BEAST 
              〈THE SECRET BOOKS OF PARADYS 供咫 複隠坑牽検

  幻想と退廃の都パラディス。 その都へと学問のために地方からやってきた青年ラウーラン。 彼は凋落貴族デュスカレの古びた屋敷に下宿する。

  だが最初の晩から、ラウーランは女の亡霊に出会う。 彼の周りで次々と起こる奇怪な出来事。

  やがてラウーランは亡霊の口からその名前を知る。 エリーズと名乗った緑の瞳の美しい亡霊は、デュスカレ一族と彼女の上に襲いかかった、過去のおぞましい事件を語り始めた。


  リーが作り出したパラレル・ワールドのパリ、パラディス。 そこで起こった妖しくも怪奇な物語。 パラディス・シリーズの2作目です。(1作目は『堕ちたる者の書』です)

  名門デュスカレ一族にまつわる呪いの歴史を、ローマ時代にまで遡り描いています。

  18〜19世紀の幻想文学を彷彿とさせる語り口調。 人ならざる存在を内包した闇の世界が、架空の都を覆い尽くしています。 各章のタイトルに用いられた色である緑と紫を様々な表現で散りばめ、極力他の色を排除した独特な色使いは、他の作家にはない感覚です。

  現代のシェエラザード姫たるリーの面目躍如とも言えるゴシック・ホラー作品です。

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長 編    1991〜

BACK(’80〜88)


BLACK UNICORN 〈ユニコーン・シリーズ 機咫複隠坑坑院
黄金の魔獣 (1992)
DARK DANCE 〈血のオペラ・シリーズ 機咫複隠坑坑押
PERSONAL DARKNESS 〈血のオペラ・シリーズ 供咫複隠坑坑魁


BLACK UNICORN 〈 UNICORN SERIES 機咫 複隠坑坑院

  魔女であるジェイヴは、砂漠に囲まれた砦を治めていた。 だがジェイヴの16歳の娘、タナクィルは友達の一人すらなく、母には構われず、孤独な日々を過ごしていた。 それどころか時折砦のあちらこちらに漏れてしまう母の魔法の片鱗に悩まされていた。

  ある時、母の魔法の影響によって、人の言葉を話すようになったピーヴの一匹が、タナクィルの元に一本の不思議な骨を持ってきた。 水晶のように透明で、月光のように輝くその骨を、ピーヴは他にも探しているようで、しきりにタナクィルに骨をせがむ。 そして、ピーヴと共にタナクィルは全ての骨を砂漠から掘り出し、組み立てた。 するとそれは一頭のユニコーンの姿となった。


  未翻訳の〈ユニコーン・シリーズ〉1作目です。 この後、『GOLD UNICORN』『RED UNICORN』と続きます。

  魔法使いの娘であるのに、ほとんど魔法を使えない少女タナクィル(Tanaquil/取りあえずこの読みにさせてください(笑))。 彼女がユニコーンの魔法に翻弄されながら、母がタブーとしている父を捜すため、旅に出ます。

  なんといってもピーヴ(peeve)がお茶目です。 トラブル・メイカーの彼がユニコーン以上に活躍してくれます。 ピーヴは、狐のような大きな耳を持ち、猫と小型犬の中間のような姿をしています。 『GOLD〜』のイラストレーターは彼をとってもキュートに描いています。 リーも楽しんで彼を書いていたそうです。

  もちろん色鮮やかな魔法も次から次へと現れます。 そしていつもとはちょっと違った角度から、今度の魔法は描かれています。 ラストのどんでん返しもリーならではです。 ああ、ぜひ翻訳して欲しいものです・・・(祈)

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黄金の魔獣  HEART−BEAST (1992)

  イギリス人青年ダニエル・ヴェームンドは、遙か東方の地で「狼」と呼ばれる大きなダイヤモンドに出会った。 ダニエルはその呪いに選ばれ、魅せられたかのようにダイヤモンドへと導かれたのだった。

  そして呪いは満月の光と共に、美しいダニエルを醜悪な魔獣へと変化させた。 魔獣となったダニエルは無差別に人を八つ裂きにしていく。

  だがそのダイヤモンドはすぐ様彼から奪われ、フランス人の商人の手に渡ってしまった。 熱病にも似たダイヤモンドの呪いに捕らわれたダニエルは、商人を追って北へと向かう船に乗り込んでいった。


  豪華絢爛な破滅の物語。 怪物が登場しますが、恐怖感はありません。 ですがリーならではの目も眩むような美青年と美女が、転げ落ちるように血みどろの破滅へと向かっていく様が凄絶です。

  個人的にはホラー・ストーリーはハッピーエンドであって欲しいのですが、この物語はそういった型には嵌められません。 (もともと恐怖を追求した作品ではないと思うのです。 ホラー小説と言っていいものか疑問です)

  虐げられている人間が、強運と自らの意志によって幸せをつかみ取る物語を、いくつも描いているリーですが、この物語では登場人物は自ら破滅を選び取っていきます。 破滅を選択する理由は様々ですが、彼らには破滅こそが財産や社会的地位よりも魅了されるものなのです。 呪いの魔獣は彼らの求めに応じているだけなのかもしれません・・・。

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DARK DANCE 〈 BLOOD OPERA SEQUENCE 機咫 複隠坑坑押

  霧のロンドン。 レイチェラ(Rachaela)はただ一人の肉親である母と死に別れ、静寂を好み、ひっそりと一人暮らしていた。 じき30歳になろうとしていたが、特に恋人を求めるでなく、だが長い黒髪と薄青の瞳を持つ美しい女であった。

  そんなある日、勤め先の古書店に客を装って見知らぬ男が、親類からの手紙を彼女に手渡した。 その一族の名はスカラベ(Scarabae)。 一族の元に来るようにという弁護士の勧めをレイチェラは断るが、一族の圧力によって仕事を失い、やむなく彼女は一族の住む地へと向かう。

  辿りついたロンドン郊外の館は、海を望む崖の上に立っていた。 そこには風貌の似た二十人ばかりの一族が住んでいた。 そして、レイチェラが物心つく前に姿を消した父親アダムス(Adamus)がいた。 だが70歳近いはずの彼の姿は、若く美しい青年のものであった。


  〈血のオペラ〉シリーズの第1弾。 数多い吸血奇譚の一つです。 陽光を避け、夜と美しいものを愛する謎の一族スカラベ。 一族のことを何一つ知らないレイチェラは、彼らの奇妙な振るまいに、苛立ち、怯え、拒絶します。 ですが、若いままの父アダムスに出会い、彼女の運命はさらに深くスカラベ一族に引き込まれていきます。

  リーならではの色鮮やかな夜の情景が、繰り広げられます。 その中で個性豊かなスカラベ一族の面々が、一つまた一つと人ならぬ姿を垣間見せていくのです。

  残念なことに謎の総ては明かされません。 吸血鬼という言葉がでてきますが、一族の人々はレイチェラに対し、はっきりとそれを肯定しないのです。 一族の謎は次作へと続きます!

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PERSONAL DARKNESS 〈 BLOOD OPERA SEQUENCE 供咫 複隠坑坑魁

  海辺の館が焼失した時に、焼死したはずのレイチェラ(Rachaela)の娘、ルツ(Ruth)が生きていた。 だがレイチェラと生き延びた一族は、すでに他の館に移った後であった。

  姿はハイティーンの少女であっても、まだ幼いルツは、助けを求める保護者として、かつて彼女をレイチェラと共に育ててくれた老女エマ(Emma)を探しながらロンドンへと向かう。 しかしその行く先々で、ルツは幼い残虐さのままに、出会う人々を殺していく。

  一方、スカラベ一族の館で過ごしていたレイチェラの前に、白髪の青年マラク(Malach)と長身の美女アルシネ(Althene)が現れた。 彼らもまた、スカラベの一族であり、マラクはルツを狩るためにやってきたのだった。


  〈血のオペラ〉シリーズ2作目です。

  一族の邪悪な血が勝ったために、彷徨える殺人鬼となったレイチェラの娘ルツ。 一族と同じように老いが止まってしまったレイチェラ。 二人を巡ってまた新たな一族マラクとアルシネが現れます。 そして徐々に若さを取り戻す老いていたはずの一族、カミロ(Camillo)とミランダ(Miranda)。 一族に魅せられ巻き込まれた人々が、翻弄される様がリアルに描かれています。

  さらに新たな、人とは異なる一族の能力が現れます。 一般的な吸血鬼の姿はそこにはありません。 それが魅力的であり、テンポの良い展開に、辞書のような厚さも何のその(^o^)、自分でもびっくりする早さで読み終わってしまいました。

  もちろん謎も続きます。 一族の『スカラベ』という名から想像できるように、どうやら彼らの発祥は古代エジプトに関係しているようです。 でもやはり、はっきりとした説明はありません。 僅かなビジョンや会話の所々に見えるだけです。 もうこれは、がんばって続きを読むしか、すっきりできないようです(笑)

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短編集    1983〜1985

NEXT(’87〜88)


血のごとく赤く〜幻想童話集〜 (1983)
タマスターラー〜インド幻想夜話〜 (1984)
ゴルゴン〜幻獣夜話〜 (1985)


血のごとく赤く〜幻想童話集〜  RED AS BLOOD;OR,
                    TALES FROM SISTER GRIMMER (1983)
 ★報われた笛吹き★  Paid Piper

  「ハーメルンの笛吹」を、古い神に対する信仰と絡めた物語。

 ★血のごとく赤く★  Red As Blood

  姫と義母の善悪が逆転したダークな「白雪姫」。 七人のドワーフならぬ、異形と化した七本の木々の歩む姿が不気味です。

 ★いばらの森★  Thorns

  「眠れる森の美女」にかけられた、真の魔女の呪いとは・・・?

 ★時計が時を告げたなら★  When the Clock Strikes

  邪悪な魔女であった母が処刑されてしまい、復讐を誓う「シンデレラ」。

 ★黄金の綱★  The Golden Rope

  「ラプンツェル(ちぇしゃ)」ではなく、ジャスパー(翡翠)を与えられた代償に魔女に捧げられた娘ジャスパー。 魔女の目的は娘を使い、闇の公子から力を得ることだった。

 ★姫君の未来★  The Princess and Her Future

  アジアン・テイスト、かつホラータッチの「蛙の王子様」。

 ★狼の森★  Wolfland

  世継ぎとして一族の女家長に呼び出されたリーゼル。 だが森の奥に住む祖母にはある秘密が隠されていた。 近代を舞台にした「赤ずきん」。

 ★墨のごとく黒く★  Black As Ink

  モチーフは「白鳥の湖」。 ある資産家の息子と、奇妙な風貌の男に連れられた娘との出会い。

 ★緑の薔薇★  Beauty

  サイエンス・フィクション版「美女と野獣」。 異星人と共存する未来の地球。 実業家の末娘エステルと猫族のような姿を持った異星人の物語。


  世界中でよくよく知られた物語が、なんとも魅惑的なリー独自の闇の世界、妖艶さと皮肉を散りばめた大人のための物語へと変貌させられています。

  清らかな姫君たちは魔女となり、乙女は闇の住人の美しさに心を動かす。 そんな、原話からは正反対の物語になってしまっているのに、まったく違和感がありません。 昔からこの闇の御伽噺が存在しているかのようです。 そしてほとんどの物語が、短編とは思えない重厚さを持っています。

  タニス・リーを読んでみたいけれど、長編はちょっと・・・という方には、オススメの短編集です(^^)。

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タマスターラー〜インド幻想夜話〜  TAMASTARA
                          OR THE INDIAN NIGHTS (1984)
 ★龍(ナーガ)の都★  Foreign Skins

  イギリス統治時代のインド。 イギリス人のフィンレイの元に、一人のインド人の女がやってきた。 アグニーニー(火の神の娘)と名乗ったその魅力的な娘を、彼の息子デイヴィットの家庭教師とするが、彼女の正体は蛇神(ナーガ)の一族であった。

 ★炎の虎★  Bright Burning Tiger

  狩人ペターサンが、人食い(マンイーター)と呼ばれる虎に食い殺された。 執拗なまでにばらばらにされた遺体。 その現場であった彼の部屋の壁には、ブレイクの詩「虎よ!虎よ!」が逆順に書かれていた。 「わたし」がその意味を追ううちに、以外な真実が浮かび上がる。

 ★月の詩(チャーンド・ヴェーダ)★  Chand Veda

  醜男ヴィクラムと醜女ギーターは、家族の薦めによって結婚したものの、互いを不満に思っていた。 だがある時家へ戻る途中、二人は列車事故に巻き込まれ、真っ暗闇の中を隣りの駅まで歩く事になった。 そして疲れて横たわった二人に、月神(ソーマ)の魔法の光が降り注ぐ。 ヴィクラムの祈りが通じたのだ。

 ★運命の手★  Under the Hand of Chance

  美しく生まれついた青年ラーマと、やはり美しく生まれついた娘スニターは、時折夢の中でのみ互いの姿を垣間見た。 二人は無慈悲な運命に翻弄され、それぞれの過酷な人生を紡いでいくが・・・。

 ★象牙の商人★  The Ivory Merchants

  著名な短編作家が文学賞を受賞した翌朝に、死体となって発見された。 それは明らかに自殺であったが、彼をそこまで追いつめたのは、暗殺者ラクシャサであった。 ラクシャサは依頼人にも自分自身にも疑いがかけられない手際の良さで、その世界では有名であった。 果たして彼が用いた方法とは?

 ★輝く星★  Oh,Shining Star

  映画大国インドの未来の姿。 映画の都タージャでインドゥーは女優として成功を収めていた。 やがて彼女は役者としての最高のカースト〈黄金の役者/スンダー・ソーナー〉を手に入れる。 だがファンへと総て公開される生活に安らぎはなく、次第にインドゥーは苛立っていった。

 ★暗黒の星(タマスターラー)★  Tamastara

  テロリストのフランス人ルナールは、成層圏ステーションの破壊に失敗し、アジアのジャングルに身を隠していた。 ところが味方からの連絡を待つ彼の前に、突然、見知らぬ娘が現れた。 そして死を目前にしたルナールに、彼女は自分のトラウマを根治するために、彼の元へやってきたのだと告げた。


  インドが舞台になっているからこそ生み出される、絢爛で残酷で深淵な物語が次から次へと語られていきます。 インド独特の濃密な空気が行間から流れてくるようです。 欧米にはないインドの死生観、運命論が、リーのスタイルの中に違和感なく取り込まれ、物語の深みを作り出しています。

  リーのストーリーテラーとしての巧みさには、舌を巻くばかりです。

  が、驚いた事にリーはインドを訪れた事がないそうです。 思い浮かぶ情景を文章にしているだけなのだと、いう話もあります。 恐るべしリー様!!としか言い様がありません(笑)

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ゴルゴン〜幻獣夜話〜  THE GORGON
                   AND OTHER BEASTLY TALES (1983)
 ★ゴルゴン★  The Gorgon

  沖に浮かぶ小島にはゴルゴンが住まう。 ダフォー島の人々は言う。 それに興味を持った作家は強引にその島へと渡ったが・・・。

 ★アンナ・メディア★  Anna Medea

  問題のある二人の子供の家庭教師として、アンナ・メディアはアーヴィング家に雇われていた。 だが彼女の人離れした雰囲気に、雇い主であるクロードは疑問を持ち始める。 そして近くの森に狼が現れ始めた。

 ★にゃ〜お★  Meow

  若い手品師スティルが出会った娘キャシーは、両親と死に別れ、拾ってきた5匹の猫と大きな家に住んでいた。 彼女はまるで猫に捕らわれているかのようであった。

 ★狩猟、あるいは死 ─ ユニコーン★  The Hunting of Death : The Unicorn

  レイスファンという存在の、 ユニコーンにまつわる3つの生と死。

 ★マグリットの秘密諜報員★  Magritte’s Secret Agent

  人形のように動かず話さなず、母親に世話をされる車椅子の青年ダニエル。 その母親が訪れた下着売り場で働く「わたし」は、芸術的な美しさを持つダニエルに一目で心を奪われてしまった。 口実を作ってその家を訪れるが・・・。

 ★猿のよろめき★  Monkey’s Stagger

  栄国人の勇士エドモンドは密林の奥にある古い聖堂に足を踏み入れた。 現れた魔物は決まりによって彼に逃れる術を教えた。 「猿のよろめき(モンキーズ・スタガー)を探せ」

 ★シリアムニス★  Sirriamnis

  奴隷として売られていた美しい異国の娘シリアムニス。 彼女の青い瞳は7つの花弁を持つ花のような形をしていた。 貴族の息子が彼女を買い求めたが、やがてその屋敷に奇怪な事が起こり始めた。

 ★海 豹★  Because Our Skins Are Finer

  ハラ・ハスラは海豹(あざらし)猟を生業としていた。 ある時娼婦のモーナに海豹の毛皮をせがまれ、見事な雄を仕留めたが、奇妙な女が彼の元にやってきて、その毛皮が欲しいと申し出た。

 ★ナゴじるし★  Quatt−Sup

  ネズミを一掃してくれるだろう、とキャビンに住みついた猫を男は受け入れた。 だがネズミを捕るどころか思うままに彼の食料を食い散らかす猫。 男は猫の横暴に頭を悩ませていたが、突如、異星人に連れ去られてしまい・・・。

 ★ドラコ、ドラコ★  Draco Draco

  道に迷った旅の薬売りが、見知らぬ土地で若い戦士カイと出会った。 そしてそのまま二人は半ば成り行きで、近くの村に現れるドラゴンを退治することとなった。

 ★白の王妃★  La Reine Blanche

  結婚したその晩に年老いていた王は死に、20歳の若さで寡婦となった白の王妃は、決まりにより塔に閉じこめられていた。 そうして鬱々と単調な一年を過ごしたある冬の日、一羽のカラスが訪れ、王妃に人の言葉で喋りかけた。


  それぞれが総て異なる雰囲気を持った、幻獣をテーマにした11の物語です。 苦みのある人間ドラマもあれば、サイエンス・フィクション、ホラーなどなど、1冊でリー作品の様々な側面が楽しめます。

  ドラゴンやユニコーン、そして人狼、猫と、ほとんどがファンタジーの世界ではおなじみの幻獣ですが、リーの手にかかると、不思議とその色を変えます。 だからといってその幻獣のイメージを損なうのではなく、読者に対し、心地よい裏切りを積み重ね、そしてその影に隠されていたもう一つの姿を見せてくれるのです。

  何よりも幻獣を産み出した人間、時には幻獣の異能すら凌駕するその強(したた)かさに、苦笑いさせられる短編集です。

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短編集    1987〜

BACK(’83〜85)


妖魔の戯れ 〈平たい地球シリーズ 后咫 複隠坑牽掘


妖魔の戯れ  NIGHT’S SORCERIES 〈 FLAT EARTH  〉 (1987)
 ★夜の娘、昼の望み★

  口減らしで捨てられ、寺院で虐げられ育った少年〈兜虫〉。 空腹のあまり蝋燭を盗み食いしてしまった罰に、森で起居する貴人の元に使いに出された。 だがその貴人と姫は、妖術使いとも噂されていた。

 ★夜の子ら★

  美しい娘マルシネは、裕福な父のもとで何不自由なく暮らしていた。 ところがある時、コルチャッシュ卿が結婚を申し入れてきた。 使いの者が差し出した財宝の数々に、父は申し出を受けた。 だが、マルシネはやはり裕福な隣家の息子ディルに、密かに思いを寄せていた。

 ★放蕩息子★

  長者の息子ジャイレシは、生まれた時から全てに恵まれていた。 だが、すべてにおいて恵まれ過ぎた生活は、ジャイレシの心から何かを欠くことになった。 やがて放蕩を始めた息子を諫めるため、父親はジャイレシを知人の元で働かせるために旅立たせたが・・・。

 ★月のドゥーニヴェ★

  妖魔ヴァズドルーの公達ハズロンドは、夜の君アズュラーンの娘アズリュアズへの贈り物として、黒馬と黒鷲との間に交配種を作り出した。 卵から生まれ出たのは翼を持った美しい馬と、馬のような四つ足を持つ醜い鷲。 やがて育った二つの魔性の生き物は、人の世に波紋を広げていった。

 ★薔薇のごとく黒く★

  ジャラシルは三人の老僕にかしずかれ、一人砂漠の中の家に住んでいた。 魔女であった母親が残した守りのお陰で、彼女は平安のうちに暮らしていた。 やがてジャラシルが年頃の娘になった頃、流浪の若者の一団がジャラシルの家の近くへと辿りついた。 若者を率いていた若き指導者ゾーレブに、ジャラシルは心を奪われてしまった。

 ★戯れる者★

  ある村に、〈凶運〉と呼ばれる幸運に見放された女がいた。 だがある時、〈凶運〉の周りで二つの兆しが現れ、それを先触れに老いた男と女の物乞いが、彼女の家を訪れた。 〈凶運〉は快く迎え入れ、貧しいが出来る限りのもてなしを二人にした。 そして・・・。

 ★魔法使いの娘★

  魔法使いラザク卿のもとに、夢見がちな乙女シェムシンは嫁いでいった。 ラザク卿の恐ろしい噂に怯えていたシェムシンだが、夫となった男の美しい顔を見るやその虜となった。 一方ラザク卿は、ある野望のために、シェムシンの美貌を必要としていただけであった。


  〈平たい地球〉シリーズの5作目です。 『熱夢の女王』で繰り広げられた、アズュラーンの娘アズリュアズの魂の遍歴。 その物語の中で語られなかった、妖魔や闇の君、そしてアズリュアズが立ち現れ触れていった、人々の物語です。

  長編の1〜4作目とは趣が変わって短編集となっていますが、『熱夢の女王』の世界が背景となっているので、読んでいてどきどきしてしまうのです。 いつアズリュアズが現れるのだろう? どう妖魔たちが人々を翻弄していくのだろう? また、妖魔たちやチャズ、アズリュアズが見せる、いくつもの姿に驚かされます。 読み返す度に、「この物語は別格なんだな〜」と思ってしまうのです。

  もう〜、とにかく読んでください。 それしか言葉が浮かびません〜!!(笑)

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アンソロジー


雨にうたれて (1987)
ジャンフィアの木 (1989)
貴婦人(ラ・ダーム) (1995)
顔には花、足には刺 (1996)
ヒューマン・ミステリ (1999)
KISS KISS (1999)
THE BEAST (1999)


雨にうたれて  CRYING IN THE RAIN 〈OTHER EDENS〉 (1987)
              Edited By Christopher Evans & Robert Holdstock

  未来の地球。 放射能によって汚染された雨を避け、苦しみの中で人々は生きていた。

  だが〈センター〉では、一握りの特権階級の人々が豊かに暮らしていた。 〈センター〉を覆う〈ドーム〉と〈入関〉の厳しいチェックによって、〈センター〉は汚染から守られている。 外から見れば楽園のような世界がそこにはあった。

  16歳の少女グリーナは、ある日母親に連れられて〈センター〉に〈入関〉した。 健康なグリーナを、〈センター〉内の裕福な男に引き渡すためであった。


  サイエンス・フィクションの短編です。 過酷な世界での、母と娘の互いへの愛情が、ほろ苦く、もの悲しく、描かれています。 なんとも不器用な愛情表現が、心の中に静かに染み入ってくるのです。

  物語の舞台である〈センター〉の中と外の世界の落差によって、汚染に苦しむ人々の生活がとてもリアルに感じられます。 こうした物語の土台である世界観は、長編であっても短編であっても、リー作品では常にしっかりと築き上げられます。 それはもう、リーの感性が、無数の世界に繋がっているとしか思えません。

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ジャンフィアの木  THE JANFIA TREE 〈BLOOD IS NOT ENOUGH〉
                           (1989)  Edited By Ellen Datlow

  ある重い病気を患う作家が、友人の所有する別荘で療養のために滞在することになった。

  彼女は別荘についてすぐに、甘い香りを放つ白い花の木を見つけた。 昼は微かだが、夜になるとその香りはむせかえる程に強くなる。 その見知らぬ木に興味をもった彼女は、友人からその名を聞き、そしてその「ジャンフィア」という変わった名の由来を調べくれるよう、頼んだ。

  ジャンフィアの木は、奇妙な言い伝えを持った木であった。


  吸血鬼アンソロジーに収録された作品です。 現在では様々な吸血鬼、様々な物語が多くの作家によって生み出されています。

  リーも多くの吸血鬼譚を書いていますが、その中でも、この作品は独特の雰囲気を持っているように思えます。

  ジャンフィアの木にまつわる話が、アラビアン・ナイトの一節のようであるのも、リー作品の特徴でしょう。 息がつまるような、夜の重い空気を感じられる作品です。

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貴婦人(ラ・ダーム)  LA DAME 〈SISTERS OF THE NIGHT〉 (1995)
              Edited By Barbara Hambly & Martin H.Greenberg

  人生の半分を兵士として過ごした青年ジェラックは、戦争のはびこる陸地に嫌気を感じ、海沿いの村を訪れた。 そこで彼は白い優美な小型の船を見つけた。 持ち主の痩せた男を探し、船を買い取りたいと銀貨を出して見せた。 だが男はすぐに肯かなかった。

  男は言った。 「貴婦人(マイ・レディ)なんだ」


  女性の吸血鬼をテーマとしたアンソロジーでの作品です。

  短編ながら、相変わらずリーは密度の高い物語を作りだしています。 女性にみなされる事の多い船を、吸血鬼になぞらえ、白と赤を巧みに散りばめた美しい情景によって、吸血鬼譚であるにも関わらず、生々しさよりも、海の中にある超自然の存在を崇高に見せています。

  吸血鬼譚のバリエーションの多さにも、いつもながら驚かされます。

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顔には花、足には刺  FLOWERS FOR FACES,THORNS FOR FEET
       〈TWISTS OF THE TALE〉 (1996)  Edited By Ellen Datlow

  魔女狩りの時代、雪山の麓の村に、アナシンとマリセットという名の二人の若い魔女がいた。 魔女狩り師の訪れを聞いた二人は、その魂を猫の姿に変えて村を逃れた。

  そして二人は真っ黒な雄猫と出会う。 雄猫は堕天使である事を二人に告げ、魔女狩りに動揺する二人に、4つの不思議な猫の物語を語り始めた。


  猫をテーマにしたアンソロジーに収められた作品です。 さすがに猫と共に暮らしているリーは、生き生きと猫の生活を描写しています。

  そして作中で語られる4つの物語それぞれに、様々な猫たちが登場します。 その姿はまさに猫ならではなのですが、全ての猫に魅力的な強い個性があるのです。 また〈平たい地球シリーズ〉を彷彿とさせる語りが、「これぞリー作品!」なのです(笑)

  猫好きの方にはたまらない、ミステリアスな魅力溢れる作品です。

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ヒューマン・ミステリ  THE HUMAN MYSTERY
              〈MORE HOLMES FOR THE HOLIDAYS〉 (1999)
     Edited By Martin H.Greenberg & Carol−Lynn Rossell Waugh

  ある年の冬、クリスマスの数日前に一人の女性が、ホームズとワトソンの元を訪れた。 彼女の名はエレノア・キャストン。

  彼女は遠縁の叔母が亡くなった事により、財産を得た。 初めのうちは余裕に満ちた生活を幸せに思って過ごしていたが、いつからか使用人がおかしな態度を取り、辞める者まで出始めた。 そして彼女はキャストン家にまつわる、奇妙で恐ろしい伝説を叔母の残した文書の中から発見した。

  エレノアはその伝説の謎を解き、不安を取り除いて欲しいとホームズに依頼した。


  クリスマスに活躍するホームズをテーマにしたアンソロジー。 お馴染みシャーロック・ホームズを現代の作家が色々な角度で書き上げています。

  そこにリー作品が収録されていると教えていただいた時は、とても驚いたものです。 推理小説まで書くなんて、リー様の守備範囲はどこまで広がっていくのだろう? なんて思いました。

  ですがやはりファンタジーの女王、ミステリー作家の作品とは一味も二味も違うホームズでした。

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KISS KISS  〈SILVER BIRCH、BLOOD MOON〉 (1999)
       Edited By Ellen Datlow & Terri Windling  AVON BOOKS

  『私』は小さな領地を持った貴族の娘であった。 11歳の誕生日に、領主である父から金の毬を結婚の時の持参金として贈られた。 だが『私』は館近くの湖に、その毬を落としてしまう。 現れたのは蛙の姿をした精霊、もしくは魔物。

  だが毬を拾う代わりに彼女に付いてきた蛙は、彼女の周囲にいる誰よりも彼女をいたわり、優しかった。蛙を毛嫌いしていた『私』も、やがて蛙を大切な友人と思うようになっていく。

  だが彼女が16歳の誕生日をじき迎えるという、ある冬の日・・・


  フェアリー・テール「蛙の王子様」のバリエーションです。 リーは以前にも『血のごとく赤く』で「彼女の未来」というアジアン・テイストの「蛙の王子様」を書いていますが、それとはまったく違う物語に仕上がっています。

  他のフェアリー・テールについてもそうですが、慣れ親しんだ物語をリー独自の世界へと、見事なまでに昇華させてます。

  私としては、ホラー・タッチの「彼女の未来」よりも、こちらのほろ苦い恋物語の方が印象深かったです。 ラストでは、蛙への主人公の想いに、ほろっとさせられました。(;_;)

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THE BEAST  〈RUBY SLIPPERS、GOLDEN TEARS〉 (1999)
       Edited By Ellen Datlow & Terri Windling  AVON BOOKS

  イゾベルは父によって、ある若い富豪ヴェサヴョンに引き合わされた。 彼は一人、姿のない召使いにかしずかれ、高いタワーの最上階の豪邸に、様々な稀少な美術品に囲まれて住んでいた。

  若く美しい二人は出会った時から互いに惹かれあい、彼はイゾベルに琥珀と金で作られた薔薇のネックレスを贈った。

  当然のように二人は結婚式をあげ、タワーの中で暮らし始めるが・・・。


  塔と薔薇でおわかりだと思いますが、〈美女と野獣〉のバリエーションです。 『血のごとく赤く』の中にもサイエンス・フィクション版がありますが、それとはまったく違った物語が展開しています。

  タイトルが〈野獣〉だけなのには、ちょっとした意味があります。 この辺の苦みは、やはり大人のためのフェアリー・テール、リー作品の面白いところでしょう。

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Last Updated 2002.05.28